熊本地方裁判所 昭和25年(行)3号 判決
原告 三井秀夫 外二名
被告 八代労働基準監督署長
一、主 文
本件訴はこれを却下する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告が昭和二十四年三月三日附訴外西松建設株式会社に対し、同会社と原告等間の労働関係につき、昭和二十三年六月一日解雇予告がなされたものと認め、同年六月八日以降同月末日迄平均賃金の支払を命じた労働基準法に関する指示はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする一旨の判決を求め、その請求の原因として「原告等はいづれも土木工事の請負等を業とする訴外西建設株式会社に雇傭されている朝鮮人労務者で、戦時中より同会社水俣出張所の請負工事に従事してきた者であるが、同会社においては昭和二十三年六月七日同会社の請負にかかる水俣市丸島防波堤工事完了後は何等正当の理由もなく原告等に休業を言渡したまま賃金の支払いをしないので、原告等は当時同市にあつた在日本朝鮮人連盟水俣支部(代表者李景夏)を通じて同会社に賃金の支払を請求する一方、被告に対し同会社が賃金の支払をなすよう勧告することを申告要請した。ところが被告は原告等の右申告に基き、昭和二十四年三月三日附を以て右会社に対し、昭和二十三年六月七日終了した同会社の請負に係る丸島防波堤工事に使用されていた朝鮮人労務者に対しては同年六月一日解雇予告がなされたものと認めるので、同月三十日迄は労働関係が継続していることとなるから、右工事当時使用していた労務者に対し同月八日以降四月末日迄の日数について平均賃金を支払われたい。右は昭和二十四年三月十五日迄に実施する、という趣旨の労働基準法に関する指示をなした。然しながら原告等は右会社より未だ嘗て有効な解雇予告の意思表示を受けたことはなく、却つて同会社より休業手当の支給を受くべき立場にあるのであつて、被告が事実を誤認し、右のような指示をなしたのは違法である。而も被告は原告等の申告に基いて右指示をなしたのであるから当然原告等にその旨の通知をしなければならないのに何等の通知をしなかつたもので、原告等は調査の結果同年十一月に至り始めてこれを知つた次第である。仍て被告のなした本件指示は違法処分として取消さるべきものであるから本訴請求に及んだ」と陳述し、被告の本案前の主張に対し、「本件指示は被告が労働行政上の監督官庁として、訴外西松建設株式会社より原告等に対して解雇予告がなされたものと認定してその判断を示したものであるから、いわゆる行政処分に該当し、当然抗告訴訟の対象となるものである」と述べた、(立証省略)
被告指定代理人は本案前の主張として主文同旨の判決を求め、その理由として、「被告が昭和二十四年三月三日附を以て、訴外西松建設株式会社に対して原告等主張の如き内容の指示をなしたことは争わないが、右指示は原告等と右会社間の労働関係の紛争解決の為になした勧告であつて、何等法律上の効果の発生を目的としたものではないから、行政処分に該当せず抗告訴訟の対象とならないものである。仮に然らずとしても、被告は原告等所属の朝鮮人連盟水俣支部代表者李景夏外一名に対し、昭和二十四年二月二十二日右指示の内容を内示したところ、同人は同年三月十五日被告にその内容の細部についての説明を求めてきているのであつて、このような事情からしても原告等は遅くとも同日迄には右指示がなされたことを知つていた筈であるから、同日以降六ケ月間の出訴期間をはるかに経過した昭和二十五年一月二十日提起された本訴は、いづれにしても不適法として却下を免れない」と述べ、本案につき、「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として、
「原告等がいづれも土木工事の請負等を業とする訴外西松建設株式会社に雇傭されている朝鮮人労務者であること、被告に対し在日本朝鮮連盟水俣支部(代表者李景夏)を通じて原告等よりその主張のような申告要請があつたこと及び被告が原告等に対し前記指示を正式に通知しなかつたことは認めるが、その余の原告等主張事実はこれを争う。被告は原告等の右申告により右訴外会社及び原告等双方について詳細事情を調査したところ、被告等に対しては昭和二十三年六月一日以前同会社より解雇予告がなされていることが略々明らかとなりこのことについては右会社及び原告等労務者側代表者李景夏の双方に異議がなかつたので、その後更に右両当事者の出頭を求め、その同意の下に原告等に対しては昭和二十四年六月一日右会社より解雇予告がなされたものとしてこれを確認し、同会社は労働基準法に従い、指示内容に示したような平均賃金を支払うべきものと認め本件指示に及んだものである。なお被告は監督行政庁として独自の立場より事業主たる右会社に対して本件指示をなしたのであつて、その結果については必ずしもこれを申告者に通知する義務はない。以上の通り被告のなした指示には何等原告等の主張するような違法の点はないから原告等の本訴請求は失当である」と述べた。(立証省略)
三、理 由
原告等の本訴は要するに被告が昭和二十四年三月三日附を以て訴外西松建設株式会社に対し、同会社と原告等間の労働関係につき、昭和二十三年六月一日解雇予告がなされたものと認め、同年六月八日以降同月末日迄平均賃金の支払をなすよう指示したのは違法であるから、右指示の取消を求めるというにあつて、被告が右のような指示をなしたことは当事者間に争のないところであるがもともと労働基準監督署長は行政処分を以て直接使用者及び労働者間の雇傭関係を消滅せしめ、又は使用者に対して賃金支払義務を負担せしめるような権限はこれを有しないのであつて、弁論の全趣旨によれば、被告のなした右指示は、被告が原告等と右訴外会社間の労働関係についての紛争を解決する為になした勧告行為にすぎないとみるべきもので、このような行為は何等直接国民の権利義務に影響を及ぼすような具体的法律効果を発生せしめるものではなく、本来行政処分としての性質を有しないのであるから、本件については抗告訴訟の対象となるべき行政処分は存在しないといわなければならない。
仍て原告の本訴は不適法としてこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項本文を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 川井立夫 青山友親 下門祥人)